明日のグレートカンパニーを創る 株式会社 船井総合研究所

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対談集

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飲食



エンプロイーハピネスの実践

二杉:社員の方が主体的に働いてる、それがエンプロイーハピネスということですが、具体的に取り組まれていることはありますか?

中野里社長:まずは、二つのプロジェクトチームを立ち上げました。接客向上プロジェクトチームと、人材育成プロジェクトチームです。メンバーはそれぞれ8名の店長たちで構成されています。
接客向上プロジェクトチームでは、玉寿司全体の接客の向上について各店の現実的な課題を抽出して、どうやっていけばいいかを考えています。そこにはプロのアドバイザーも入っていますが、あくまでも主体は店長たちが動いていますね。
人材育成プロジェクトチームも「ありがとう推進活動」というのをしたり、人材評価をつくっていこうとか、調理師はどう育てていくかなどを主体的に考えてくれています。忙しい中、自分たちで時間を決めて、どんどんミーティングをしながら話を進めているようです。少しずつ、一つひとつ形にしていってくれていますね。

二杉:このプロジェクトチームのミーティングは、だいたいどれくらいの頻度でコミュニケーションをとられているんですか?

中野里社長:ミーティングは月に2回くらいですかね。

二杉:なるほど。結構、進捗状況確認の頻度が多いですね。少しお聞きしたところによると、玉寿司大学というアカデミーみたいなものも作っていこうという動きもあるとか。

中野里社長: そうですね。従業員は皆『玉大』と言っています。最初は包丁も握ったことない子たちが、どういうステップを踏んで調理者として成長していけば良いかを考えたことがきっかけでした。どうやってカウンターで素晴らしい手さばきを見せながらお客様に喜んでいただいて、いい料理を出していくか、これをカリキュラム化するというのが、この玉寿司大学の始まりだったんです。今ようやくカリキュラムの中身ができあがってきました。来年入ってくる新入社員はいきなり現場に入るのではなく、4ヵ月間ぐらい玉寿司大学で、しっかりと基礎を勉強してから現場に行ってもらいます。もちろん調理だけじゃなくて、われわれの経営理念についてや職場の接客、人間関係についても学んでもらう新たな試みです。

二杉:4ヵ月間というと結構長いですが、その間は一切、店舗には入らないんですか?

中野里社長:2~3ヵ月目くらいに少しずつ店舗での実習も増やしていきますが、本配属ということではなく、あくまでも勉強の一環です。

二杉:なるほど。その4ヵ月間はなかなか濃密な期間ですよね。


『社内すし技術コンクール』では、各店の板前が、日頃磨いた腕を披露する

社員一人ひとりに光をあてる

二杉:あと、こういった取り組みを、『玉通信』という形の社内報で、毎月定期的に発信されていらっしゃいますよね。

中野里社長:今、53号ですから、もう5年くらいになりますね。

二杉:このあたりも継続されていて、何か成果や手ごたえはありますか?

中野里社長:最初に始めた目的は、社員の存在や努力に光を当てていきたいと思ったからなんです。エンプロイーハピネスで、限られた資源の中で、どうやって社員の幸せを増やしていくかを考えていました。そんなときに私自身が取材を受け、初めて自分の人生や経営に対する信念を話しました。それが私にとってすごく喜びだったんです。人生や、努力していることをしっかりと誰かに伝えることが大事だと気づきました。これを自分だけじゃなくて、社員一人ひとりにも経験してもらいたいと思って始まったのがこの社内報です。

二杉:なるほど。

中野里社長:社員はもちろんアルバイトも楽しみにして読んでくれています。取材を受けた社員は、家族に社内報を渡す人もいます。ご両親が新入社員の初級技術コンクールの特集記事を見て、「わが子がコンクールでこんなに頑張っている」と涙して喜んでくれたという話も聞きますね。玉通信は社員の喜びにもつながっています。

二杉:素晴らしいですね。最近、社長はよく感性というか、感じる心を大切にしたいといおっしゃっていますよね。

中野里社長:最近、感性微弱という、ひとつの社会問題があることを知る機会があったんです。要するに、人の傷みを傷みとして感じられない、人の悲しみや苦しみを感じることができないということです。
私たちのようなお客様を相手にする商売も、頭の良さで動くということよりは、やっぱりお客様の気持ちを感じたり、察知する感性を大事にしています。ですから社員教育の一環で、心の勉強、価値観の勉強をする時には、感性に訴えかける内容を重視します。そのために必要なのが自分自身を見つめなおす内観だということです。

二杉:今回、「働く社員が誇りを感じる会社賞」を受賞されましたが、離職率がとても低いところが我々が注目した理由です。これは社長が温かみのある社風を大事にしていらっしゃるからだと思います。何か日頃から大事にしていることはありますか?

中野里社長:普段は、社員の成長を見て、承認シートに厳しくフィードバックをすることもあります。しかし社員である前に人間なので、社員が本当に人として困っている時には支えてきました。これにはいろいろなケースがあります。例えば、宮城から来た女性のスタッフが東京の店舗にいるのですが、お店の人件費だけで考えればシフトを削ったほうが良い日でも、そのスタッフは入っていたりするんです。

二杉:それは経営上、気になりますよね。

中野里社長:はい。私も疑問に思って直接聞きました。そのスタッフは震災の時に旦那さんと娘さん、一度に大事な2人の存在を亡くされたのですが、奇跡的に一人の新たな命を懐妊していたそうなんです。それで、自分ひとりで子どもを産んで、今は新しく自分の人生を立て直すために東京で頑張っているということでした。その話を聞いてうちの店長が「すぐにうちで働いて頑張ろう!応援するから」ということで、ほぼ毎日シフトに入って頑張ってくれてるということだったんです。

二杉:それは人情ですね。

中野里社長:こういうことを大事にしたいというか、お金の損得の勘定以上に大事なものがありますよね。そういうことを社員が当たり前のように言うし、むしろ誇らしげに私に伝えてきて、嬉しそうに働いてくれています。そういう玉寿司という存在であってよかったなと思います。やはりサティスファクションだけでなくハピネスも大事です

寿司は永遠なり

二杉:中野里社長は情報のインプットのために、いろいろな企業の社長ともコミュニケーションをとられたり、多くの場に足を運ばれて意識的にインプットをされていますよね。先日、一緒にアメリカでグレートカンパニーといわれる企業を視察してきましたが、その中で、この企業のこんな取り組みが良かったと感じたものはありましたか?

中野里社長:スターバックスとグーグル社ですね。すべてで感じたことなんですが、AI、人工知能がこの世の中にもたらすインパクトは計り知れないと実感しました。と同時に、スターバックス社が言ってらした「我々はインターネットでできないものを提供するんだ」という言葉が印象的でしたね。寿司屋での美味しい心のこもった一貫は、AIでの提供もインターネットでの販売もできません。そういう価値を、玉寿司ももっと磨いていこうと思いました。

二杉:では最後に、社長が考える玉寿司の展望をお聞かせください。

中野里社長:海の幸とお米のシンプルな組み合わせであるお寿司は、人間がいる限り絶対なくならない。そして、海の幸を美味しくしているのは、江戸前寿司だという誇りがあります。そういうふうに、皆さんがされているお仕事も永遠に続く要素があると思います。ただし、永遠に続かせるかどうかは経営者次第ですし、今、何を努力するかで決まります。玉寿司も、今後も永遠であるかどうかは別です。未来は、経営者の努力、社員の努力、いろいろな前向きな努力でつくられていくんですよね。だから成長発展するか衰退するか、あとは自分たち次第だよと、いつも考えています。

二杉:努力なくして成長なしということですね。

中野里社長:はい。先代からずっと『寿司は永遠なり』という言葉を言われ続けています。私はこの言葉に何度も支えられているんです。厳しい局面に立った時、壁にぶつかった時に、必ずこの言葉を思い出して「必ず道はある」と思うんです。我々はこの言葉を信じて、いい100年企業を迎えて、その先も日本が誇れる江戸前寿司の文化を担う組織として輝いていきたいです。

二杉:私どものクライアントでも、実は9割くらいが2代目3代目で事業承継をされた方です。本日のお話は、多くの会員様にとっても役立つお話なのではないかと思います。本日はありがとうございました。


開店前、経営理念の唱和で始まる「活力朝礼」。理念を共有する大切な時間だ

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中野里陽平氏 中野里 陽平(なかのり・ようへい)氏
株式会社 玉寿司 代表取締役社長

本社所在地:東京都中央区築地2-11-26 築地MKビル3F
設立:1965年
資本金:3,000万円
従業員数:607名(2015年12月現在、パート含む)
業務内容:寿司店の経営
http://www.tamasushi.co.jp/index.html

※ 企業プロフィールは、受賞当時のものです。
二杉 明宏 二杉 明宏(にすぎ・あきひろ)
株式会社 船井総合研究所

1974年生まれ。2000年船井総合研究所入社。入社以来、外食関連10以上の業種でコンサルティング活動に従事。特に、業態開発、新規出店、多店舗展開などのテーマでのコンサルティングを得意とする。ローカルチェーンからナショナルチェーン、中国外食企業に至るまで幅広いクライアントをサポートしている。